2.依存症の素質
ギャンブル依存症解析
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17歳の彼は高校生です。
なんとなく生気の足りない様な彼の物腰は、周囲にいつも不機嫌そうな印象を与えていました。
彼自身も、「常に退屈でなんとなくぼんやりした気分」にとらわれているものですから、人付き合いも乏しく、学校なんて超絶つまらないものと認識してしまいます。
若いのにもったいない。
しかし、歳の違う人間同士で過ごす「バイト先」は、彼にとってはなかなか充実できる場でした。
2つ3つ歳の離れた先輩方や社員の方々には、彼の「歳不相応に浮き世離れした」キャラが逆にイジり甲斐があった様で、自分から打ち解ける事が出来ない彼が、その場の人間関係に馴染むには時間がかかりませんでした。
バイト先で働く事、いや、それよりも、そこにいる皆と過ごす時間がとても楽しかったのです。
バイトが終わると、事務所の前のちょっとしたスペースで皆と一緒にやれやれと一服します。
30分程度雑談したあとに、「おつかれー」と揃って店を出るのが定例でした。
そこで先輩方は、「スロット」の話をたまにしては盛り上がっています。
「あれはアツい….!」
だの
「ハズシはそこじゃねえってバカ、チェリー付きの方をビタな」
やら
「今度出るB-MAXてすげえらしいぜ?」
などと、彼には先輩方が何を喋っているのか一つも理解出来ません。
「僕もその話に加わりたいな」
それだけの理由で、彼はスロットに興味を持ちました。
話は早く、次の日には先輩にパチンコ店に連れて行ってもらいました。
先輩がお気に入りの台「タコスロ」を並んで打ちました。
ああだこうだと、丁寧にレクチャーしてもらいながら小一時間ほど打ちますが、
大当たりが来なかったせいか彼にはサッパリ面白さが解らないままでその日は帰ります。
別の日に今度は一人でパチンコ店に行き、まあ、適当に選んだ台に着席します。
「メダルを三枚入れ、レバーを叩き、3つのストップボタンでリールを止める」
教わった一連の動作をゆっくり繰り返します。
「リーチ目が出たら、7かBARを狙って止める」
そうしたら「当たり」だという事も認識し、小一時間打ちました。
「7なんて見えないよ…リール?回るの早っ…..なにコレ」
メダルが増える事は無く、ただ「つまんないな」と思い帰りました。
「超もったいない事したな…..5000円…..」
結局、彼は何の興奮も得る事も、後ろ髪を引かれる思いもなく、首をかしげながら原チャリで帰りました。
バイトの日、一応先輩に報告しました。
「先輩、アレ全然面白くないですよ!なんかサイとかブドウとかが揃うだけで……」
やさしい先輩は、その台の概要を説明してくれました。
「ピエロのやつだよな?ジャグラーって台だろ。まあ、初心者向きだからちょうどいいんじゃね?
いいか?左下にあるチャンスの枠があったろ?そこ光れば当たりだからな?」
ピエロもクソも….もういいですよあんなの!つまんないし……
しかし、彼は数日後5000円をもってパチンコ店に行きました。
「なんだか魅力が解らなかった」その事がどうにも引っかかり、微妙に悔しかった。
その感情が最も強く、あとは
「当たったらどうなるんだろう?」
という好奇心。
彼は人一倍「退屈に耐えられない」「共感に対する欲求」という感情が強い性格傾向であり、
「生真面目で物事に固執する」傾向も加わるため、こないだ打ったスロット台に対する不完全燃焼感をなあなあにする事は出来ませんでした。
「つまらない」と一度結論づけたが、再びパチンコ店に足を運ぶには充分な理由が揃っていました。
ここで彼からある種の「素質」を見い出す事が出来ます。
「ギャンブルにハマれる素質」です。
同じシマの「ジャグラー」コーナーに行き、こないだと同じカド台に座ります。
「これか、GOGO…CHANCE!……?へんなの。
まあいいや、ここが光れば当たりだったな」
ここが光れば当たり、ここ光れば当たりと。
最初の千円札を交換した50枚のメダルが下皿から無くなりそうになってきたその時、彼は「今まで味わった事の無い感覚」を体験します。
GOGOランプがうっすら光りました。