3.脳内開発
ギャンブル依存症解析 【最初から読む】
初めての大当たりにしては、彼は特に感想がありませんでした。
ほんとだ、光った。
て事は「当たってるから7かBARを狙って止める」訳だよな。
ようし……
先輩のシンプルなアドバイスが前知識となり、今何をすべきかは解っています。
しかし、肝心の狙うべき絵柄が見えていません。
「目押し」が彼はまだ一切出来ません。
適当に押しても揃わないので、とにかくリールを回してよーく見ると、右のリールに7とBARがくっついているのが「塊」の様に視覚で認識できました。
ここだけは狙って止められます。
左と真ん中のリールは適当に止め、絵柄がテンパイさえすれば揃える事が出来ると確信しました。
2,3回目で、BARがテンパイしました。
「よし!右は見える!」
右リールの「塊」を狙い、力強く目押しをしました。
BARが一直線に揃い、BIGボーナスです。
チープなファンファーレと共に、いままでしんみりと無機質だった台はギラギラと光り出し、あれよあれよという間にどんどんメダルが出てきます。
小役であるブドウがバンバン揃い、リプレイが揃っては15枚づつ払い出されます。
メダルがどんどん出てきて、はじめて彼は嬉しくなってきました。
「ああ、こういう事か。なるほどね。」
スロットの魅力が少し理解できました。
これだけの事だったら、スロットに夢中になるなんて事はまずありません。
問題はその後でした。
1回当たって気が済んだ彼は、BIGボーナス終了後すぐに払い出しボタンを押し、頭上にあったドル箱にメダルを移しました。
その後どうするかまでは先輩に教わってません。
とりあえずカウンターの方に向かうと、なんだかこわそうな店員のお兄サンに箱を奪われます。
一瞬だけ「没収!?ダメなの?」とか思ってヒヤリとした様子でした。
高校生が出入りしていい様な場所ではない事を、一応自覚しているからです。
店員さんは1枚のカードを差し出し、軽く会釈してくれたので、これを持って堂々とカウンターに行って問題ないと確信しました。
カウンターで受け取った見た事ない物質を、すこし離れた「景品交換所」で渡すと、黙って6000円が出てきました。
彼の今日の収支は、プラス5000円とショートホープ1箱となりました。
GOGOランプの点灯よりも、目押しでBIG絵柄を揃えた事よりも、いっぱいメダルが出てきた事よりも、「景品交換所で現金が増えて出てきた事」ここに彼は妙な快感を覚えました。
不条理に金が増えた事に興奮しました。
「博打行為」だという事を自分がリアルに体験した事に対し、まずワクワクが止まりませんでした。
そして、少し冷静になった彼は、一連の体験を無意識下で整理した様でした。
お金がスロットで増えた。
メダルを交換した。
メダルがいっぱい出た。
BIG絵柄を揃えた。
GOGOランプが光った……。
要は、光った時点で喜んでいい場面だと……
頭で考えて導き出した訳ではなく、脳内でそういう認識に自然と変化しました。
スロットで興奮出来る回路と、興奮出来る受容体が軽く出来上がりました。
それを早急に裏付けるかのように、数日後、彼はまた1000円でGOGOランプを光らせます。
光った瞬間に、味わった事の無い激しい興奮と幸福感に襲われます。
その興奮の度合いと内容は、とても説明できるレベルではありませんでした。
それも当然です。彼に今なにが起きているのかというと、
GOGOランプが光って当たりを認識した瞬間に、頭の中で半端じゃない量の脳内麻薬が分泌されているからです。
ただそれだけの話です。
何故、そんな一瞬でそんな危なくもハイな状態になれるかというと、彼は「前回の体験をもとに喜ぶべき事例が頭で整理されていて、感情を司る脳の部位と、感情を操作し興奮を促す脳内神経伝達物質が、興奮のスタンバイ状態になっていた」という事。
そして現時点で、「スロットでは、ここが契機で自分の快感に繋がる」という事を理解しているので、自分の新しい「興奮思考回路」みたいのを、脳に自ら開発させたのです。
今回で言う、「GOGOランプ」点灯がその契機であり、またそれがシンプルな現象であればあるほど、そして突然に起きる現象であればあるほど「即効性」を生み出します。
さらに、スロット台のハデな光とわかり易いファンファーレなど、ハッピーな演出がそれを手伝います。
彼は当然、そんな事は1ミリも解釈していません。
ただただ、おとなしく座りながら内心は狂喜乱舞です。
自ら作りだした回路から出てくる脳内麻薬で酔っぱらっている真っ最中です。
その日彼は出たメダルをすぐに交換せず、無くなるまで打ちました。
そして、えもいえぬ妙な悔しさにみまわれながら原チャリを飛ばして帰宅しました。
どうにもおさまらない気分は、また彼をパチンコ店へと足を運ばせる事になりました。
>NEXT 4. リーチ目 【最初から読む】
にほんブログ村