7.彼の要望
ギャンブル依存症解析【最初から読む】
「4号機クランキーコンドル」との出会いは、彼のギャンブルに対するスタンスに大きな変化をもたらしました。
この機種に於いての「リプレイハズシ」と「通常時の子役目押し」の意味と効果はバイト先の先輩から聞いていました。
「じゃあ先輩、そのクランキーコンドルを真面目に打ってれば勝てるじゃないすか…..!」
「まあな、でもコンドルももう古いしさ、置いてる店あんま無いんだよね。
それに等価交換の店なら、だぜ?」
「等価なら?換金率のコトですよね。どういう事ですか?」
「いいか?よく聞け。コンドルはな、等価交換だったら設定1でも機械割が100%超えるんだよ。ハズシとか完璧にやってりゃな。」
「先輩、もいうちょいわかりやすく……」
「まー要するに、等価の店でコンドルあったら勝てるから打っとけ。」
「なるほど!」
「テキトーに打っても普通に負けるからちゃんと打てよ?ハズシとかのやり方はさっき言った通りな……..」
彼は当初、ギャンブル行為そのものに熱くなる事が目的でした。
現金を賭けると、負ければ懐が切実に痛いし、勝てば理不尽に金が増えます。
無機質で妙に抽象的な魅力がある「パチスロ台」で、えもいえぬ背徳感を薄く感じながら「機械」相手に独りで勝負する。
それは彼が実生活で常に付きまとわれていた厭世観と共鳴し、又、ある種の「自閉欲」の様なものを満たすのにとても都合の良いものでした。
一時でも虚無感を埋めてくれるパチンコ店は、彼にとっての居場所となっていたのです。
現金と引き換えに。
「たまに勝つ事はあっても基本的に負ける」
彼は早い段階でそこは理解していました。
ギャンブルが打ちたくて打ちたくて、その刺激に囚われている彼にとっての問題は金が減っていく事のみでした。
「なんとか金を減らさずに、あの刺激を味わえないものか……」
完全に中毒です。すでに認識すら歪んでいます。
「どこかに安い覚醒剤は売ってないものか……..」
これと言ってる事はさほど変わりません。
この時点での彼のギャンブルに対しての解釈は、その歪んだ認識が産み出す暴論「勝てば問題無い」というものでした。
そこで「勝てる機種」である「4号機クランキーコンドル」の存在を知ります。
この時点での彼の要望通りの機種です。
幸か不幸か、設置店はすぐに見つかりました。
「あった!コレだ!確かに古い台だ。鳥カワイイな…….」
レトロで無機質な見た目の台を好む彼にとって、クランキーコンドルの7図柄の冷たいデザインと、愛嬌あるコンドル絵柄の対比はツボだった様で、妙にそそられ、まず視覚的に興奮しました。
その台で勝つ条件は「ハズシ、小役目押しの完全遂行」
この頃の彼の目押し技術は、絵柄を直ちに停止させる「ビタ押し」が出来なくもない程度のレベルでしたので、クランキーコンドル攻略に於いて技術的には問題ありませんでした。
そしてもうひとつの条件「等価交換」
これは、打つ前に確認する必要があります。
ピアスだらけでやたら凄みのある店員さんに訊きました。
「すすすいません。ココのお店は何枚交換ですかね……?」
「あ? とーか。とーかっスよ。等価。」
彼はクランキーコンドルの下皿に煙草を置き、コーヒーを買いに行きました。