ギャンブル依存症解析【最初から読む】





 
彼が10000円だけ財布にしのばせてパチンコホールに行ったのは、それ以上の金額では打たないつもりだったからです。

 

ぜんぜん当たらないニューパルサー。

頭に血が昇っただけで、「10000円勝負」という最初の認識は、驚く程カンタンに吹っ飛んでいました。リーチ目を出すだけの為に、追加資金10000円を取りに帰り、またホールへ戻りました。

通常の思考状態から考えたら、この時点で頭がおかしいと判断できます。

 

彼はこの時17歳です。

この一年後にはもっと頭がおかしくなります。

そして二年後にはおかしくなった状態が普通の状態になってしまいます。

 

 

ホールに戻った彼は、またニューパルに座ります。

同じ台で、さっきの負債を取り戻しつつ、リーチ目をみて興奮したい。

よくよく考えると、それは無理難題です。

ギャンブルモードに一度でも移行した精神状態と思考パターンは、リスクを無視します。

危険です。

当然、その時点で彼にはその自覚が一切ありませんが。

 

 

同じ台に1000円を入れてすぐの事でした。

「BAR、カエル、BAR」と中段に並びました。

なんというか、この台に於いてはアホでも解りそうな「リーチ目」が止まりました。

 

「コレは…..」とリーチ目シールで確認すると、その解り易い出目は確かに表記されています。

投資11000円でようやくボーナスが確定しました。

7を狙います。

カエルを揃えたいのですが、見えないのでカエルは目押しできません。

 

 

あれだけバラバラにしか止まらなかった7絵柄が、狙って止めたら一直線に揃いました。

 

「さあッ!2階スロットコーナーからぁ!!ニューパルサーコーナー238番台ぃお付きのお客様からBIGボーナスゲームスタートォォ!!さぁ~張り切ってお出し下さいませぇ!!」

 

と、店員の絶叫マイクパフォーマンス。

この頃は、当たるたびに店員さんがこうして客に煽りを加えるのが普通で、パチンコ屋の風物詩でした。

 

しかし、彼の耳には届いていません。

ドーパミンやらβエンドルフィンなどなど、7が揃って即座に分泌された脳内麻薬で快感の真っ最中です。

予定以上の金を入れてだいぶビビっていた状態からの初BIG。

かなりの緊張状態から一瞬で緩和される感覚、ある種の安堵感、死にそうな状況から助かった様な心境、メダルがガンガン出てくる報酬感、様々な快感が入り交じった状態です。

「一瞬」でその快感状態に入りました。

彼は過剰な幸福感に一時、ほんの数分、浸っていられます。

 

 

ボーナスゲームが終了し少し冷静になり、彼はこう思いました。

 

「よし。とりあえず一回当たったし、今日はヤメとこう。

いま帰れば5000円負けくらいで済むしな……さらに10000円も取りに帰ったのはさすがにやりすぎだったし…..」

 

すこしまともな判断力が彼に戻りました。

 

ここで台の「クレジット清算ボタン」を押してさっさと帰れば、もしかしたら彼はギャンブル依存症にならなかったのでは?

そう思います。

 

 

理由は、「クレジット内の50枚だけ打って帰ろう」と思いとりあえず回したからです。

 

彼は箱にメダルを移していて、本当にクレジットを消化したら帰るつもりでした。

 

しかし、BIG終了後2ゲーム目で、狙ってもいない7が揃いました。

 

その後、また2,3ゲームでリーチ目らしき出目が止まり、狙ったら7が揃いました。

 

さらに10ゲームくらいでまたBIG。

 

そんなありえないペースでBIGを7、8回は立て続けに引きました。

 

全てクレジット内のBIG連チャンでした。

 

 

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