10.洗礼
ギャンブル依存症解析【最初から読む】
クランキーコンドル同様、「目押し」の技術が備わっていれば充分勝負になる3台。
「B-MAX」「アレックス」「大花火」
だいぶ稼いでいたクランキーコンドルが撤去され、そのシマに新台入れ替え満席となった「B-MAX」を後ろから眺めているうちに、彼はある事に気がつきました。
「若い客はBIGボーナス中、ハンパなく真剣に目押ししてる…..」
すぐに理解できたのは、殆どの客はリプレイハズシをしているという事です。
その日は満席のまま座れなかったので、帰りに雑誌を読んで「予習」をしました。
そして解った事は、この台のリプレイハズシは最も精度の高い「ビタ押し」が必要であるという事。出玉が多い分、当たりの確率が低く「かなりの荒波」である事、でした。
要するに、「ビタ押し」が完璧に出来なければ「負けるのがあたりまえ」な台です。
コンドルもそうであった様に、目押し次第でどうにかなる台は「高設定」はまず期待出来ません。
基本的に「設定1」である事を覚悟して打つ必要があります。
そのなかで目押しを怠らず、ミスをせず、そこで初めて「勝てる台」となります。
目押し精度が中途半端で設定1を打つと、彼がコンドルで勝っていた頻度と同じくらいの比率で、今度は負けます。
しかし、目押しで勝てる事を実証した彼は「B-MAX」で勝とうと思いました。
勝てません。
「ビタ押し」が完璧でないどころか、成功率5~6割だったからです。
この台はリプレイハズシ一回のミスで100枚前後のBIG獲得差枚数が出るというシビアな台です。
目押しが完璧な場合は平均でBIG一回600枚程度は安定して獲得出来ます。
ハンパな場合は500枚も取れなかったり、下手したら400枚を下回る事も普通にあります。
BIG毎に2000円~4000円も損するリスクを抱えて打ち続ければボロボロに負けます。
それでも、彼はB-MAXに固執し続けてはガンガンと負け続けました。
単に、台のゲーム性やリーチ目の感じが好きだったのもありますが、肝心な点はそこではなかった様です。
この台に対し、「自分の技術次第で勝てる」と認識した為に「負けたのはハズシを何回かミスったからだというのが毎回の敗因であり、自分の頑張り次第では勝てる台なんだ」と信じて疑わなかったからです。
ギャンブル依存症の最も性質の悪い点は「勝てば問題無い」という歪んだ認識です。
そして、勝負と捉えている前提であるはずなのに「勝ち」のみに着目しています。
その証明として、負けた場合は「勝てる条件を完遂出来なかった」と理由付けてその条件を強化する事にのみ反省点を置き、負けを認めません。
ギャンブルで勝つ事に執着した人間は、博打の「偶然性の遊び」という本質から最も遠い考えに陥ります。
「ギャンブルで金を増やす」という破滅的な思考です。(ギャンブルで負けを取り戻すも同意)
スロット台の当たりの頻度はプログラミングで委ねた機械の乱数抽選であり、確率はその事象に於ける結果的な数字の定義付け役割でしかありません。
頻度や確率を認識し、人為的にそれを操作して金を増やすのはギャンブルではなく「確信的な投資」であり、それは対象が機械でなく人間であった場合にのみ可能なビジネスと成りうります。
頻度や確率は把握しているものの、肝心のその操作側がスロット台という予想不能の抽選をする機械であるから負けた場合は自分の技術やらのせいではなく、機械のせいにするべきなのです。
内部に関わらず「機械の偶然性をコントロールする事」など不可能なのですから、負ければ「ツイてないから負けた….」とあきらめがつきます。
しかしギャンブル依存症の人間は、負けた時は本気で自分のせいに出来るのです。
「ハズシをミスらなければ…..」「隣の高設定に座っていれば…..」
そこには、偶然や確率を少し操作出来る知識や技術(高設定は勝てる、ハズシが効く、など)を根拠においた行動や思惑がある為です。
すると、自分次第で勝率は上がる。と確信する事が出来るものだから「ギャンブルの負債をギャンブルで取り返す」という常人では理解不能な行動を続けられるのです。
そして、常人にはこれこそ最も理解不能な事なのですが、ギャンブル依存症の人間は「どこかギャンブルをギャンブルとして捉えていない」ところが根深い所にあります。
博打行為中の強烈な脳内麻薬に加え、内向的嗜癖と習慣、報酬欲求の抽象化と自己洗脳、責任対象の倒錯、などなど依存症解析を進めていけばいくほど、依存症の主な原因がどんどん増えていきます。