ギャンブル依存症解析【最初から読む】




ほとんどミリオンゴッドしか打たなくなった彼は気がついていました。

 

ある時は勝つ為に懸命に目押しをし、ストック機の性能と仕組みの情報を全て網羅し、甘釘台では止め打ちはもちろん、羽根モノなんかでは台の傾斜まで計算に入れて打ちました。

 

現行機種の天井ゲーム数をとチャンスゾーンは全て暗記し、都合の良い台が見つかるまで何店も歩き回ったりしました。

 

イベントの日は朝から並んで整理券を取り、ダッシュで狙い台の下皿に煙草の箱を放り投げました。
きちんと収支表をつけ、いくら勝っていくら負けて、今月トータルはいくらだと記録する事を怠りませんでした。

しかし、一度アツくなってしまうと冷静な判断は簡単に破綻し、結局勝ち続けている時しか勝てない事は明らかでした。
そして、勝てる要素がある機種が無い時でもなんだかんだと理由を付けて好みの台を打ち込みます。

 

 

「勝てる要素が充分ある機種が無い時は打たない」という選択肢が彼にはありません。
それはもちろん彼がギャンブル依存症だからです。

 

 

要点は、「ギャンブル依存症である限り、定期的に打ち続ける」
すなわち、「勝てない台しかなくても、定期的に打ち続ける」という事です。

 

結果として5号機転換からは「やりようで勝てる台」が極端に少なくなったので、もうボロボロに負けました。
勝てる要素があるとしたら、毎回高設定台のみを打つというくらいですが、それはほぼ不可能です。

 

そのあたりが充分解っているからこそ、「ミリオンゴッド神々の系譜」しか打たなくなってしまったのです。
彼にとっては現行台では唯一アツくなれる台でしたし、「打たない」という選択肢は無かったので、だったら好きな台を。という訳です。

 

そんな中、前回の記事で記した「ゴトの貼り紙」以来、ホールに対しても台に対しても完全に疑心暗鬼になってしまい、全く勝てません。
何故それでもこの機種を打ち続けるかという事を考えざるえなくなったのです。

 

 

「やっぱり、面白い台でアツくなりたいからだ。
アツくて勝てるのがベストだけど、もうこの台はダメだ……………….」

 

「でも、勝てる台なんか今は無い。
朝から設定6とか打てればそりゃあいけるっぽいけど、いろいろと無理だ。
第一、遠隔とか出玉調整とかそのへんの濃い情報も、昔は知る手段があったけど今は解らない。普通に打って負けてるのかイカサマされてるのかも全く解らない。」

 

 

「そしたらもう僕は完全に只のお客さんだ。勝つ時もあれば負ける時もある。結局は最終的に負ける普通のカモだ。」

 

 

 

 

「でももしかしたら、もう少ししたらまた規制が甘くなって、昔みたいに目押しや立ち回りで稼げる台が出て来るかもしれない…..!」

 

 

 

 

「…….でもそのあとまた規制されて、ガチガチに勝てなくなって……..
今までその繰り返しだから、これからもそうだろうな。
いや、むしろこれ以降は4号機みたいな時代は永久に来ないかもしれない…….」

 

 

 

 

「どちみち、どんな状況でも僕は打つ訳だから勝っても負けてもおなじだ」

 

 

 

 

 

「結局、収支がどうこうじゃあなくて、アツくなりたいだけだったんだ。」

 

 

 

 

 

 

彼はそんなことを考えながら、ジャグラーのシマあたりをグルグル歩き回っていました。

 

今まで味わった事のない様な虚無感に苛まれ、こうも思いました。

 

 

「途中あたりから、なんとなく退屈だったり虚しかったりするのをゴマかす手段だってのは気がついていたんだ。
寂しいのを紛らわすのにうってつけなのが、僕にとってはギャンブルだったんだ。」

 

 

 

「勝っても負けてもまた打つんだから、収支どうこうじゃなかったんだ。
てことはもう打つ理由はアツくなる為だけだ。そしたら、金がなくなったらおしまいだ。」

 

 

 

「でも、借金してまた打つんだ。

 

そんで、その返済の為にまた打つんだ。

 

なんだかんだ自分で納得できる理由をつけて打ち続けるんだ。

 

ギャンブラーは自分に嘘をつく天才だな。」

 

 

 

 

 

 

ブツブツと自問しながら、彼は何周ジャグラーのシマを徘徊したでしょうか。

このとき彼は1万円ほどマイナスの状態でした。

時刻は19時程度で、まだ逆転の目もあれば軍資金も財布に充分あります。

この状況下は、彼が勝負続行する確実なパターンです。

 

 

 

しかし、彼はジャグラーのシマをフラフラと抜け、ホールに居る時は必ず付けていた耳栓をはずし、まだ新しいそれをケースごとそのままゴミ箱に軽く投げ込み、帰路へ向かいます。

 

 

 

「勝っても負けても同じか。」
一連の考えと10年以上の博打中毒経験から出たそのシンプルな結論は、彼をギャンブルから決別させるものでした。

 

 

 

 

 

 

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