34.不思議な最狂台
ギャンブル依存症解析【最初から読む】
導入から1年くらいが経とうとする頃、彼がいつもの様にミリオンゴッドのシマに行くと、台と台の間に警告を促す紙が均等に貼られていました。
それが何を示唆するものかは、ホール勤務経験のある彼はすぐにわかりました。
「ミリオンゴッド神々の系譜」で多発する「ゴト行為」に対しての警告です。
体感器を使用して特定フラグを誘発するという、大昔から存在するレトロなゴト行為がこの5号機にも通用する事が発覚し、軒並み対策されていました。
「まあ、関係ないだろ。ちょっとこのシマの客が減った気がするけど。
気にしないで打とう……..」
その日彼は、軽く「GOD」を引くどころかボロ負けしました。
そしてその次に打った日もボロ負けし、連戦連敗が始まりました。
その間、あれだけ確率以上に引いていた「GOD」が一度も引けませんでした。
さすがに極端すぎるな、と思った彼は冷静に考えました。
「まず、ゴトの対象になった機種には高設定は望めない。あと確か、撤去が決定した機種にはよほどの事が無い限りほぼ全台設定1だ。って……前の職場のホール店長が言ってたな……」
ミリオンゴッドだからもともと高設定にはさほど期待していないものの、彼はその警告の貼り紙以来、たいへん違和感を感じていました。
「僕がGODを連日引けないのはまだ納得できる。今までポンポン引けてたからさすがに偏ってきたんだろう…..でも、何故かシマで打ってる他の客も全然GOD揃わないのは何だ?
あきらかに前よりもおかしいぞ。スペック自体が変わったみたいに感じる…..」
仮に全台が設定1であっても「GOD」揃いのプレミアムゴッドゲームの確率は変わりません。
全設定共通で1/8192です。
しかし、シマの稼働状況が落ちた事を考慮しても、明らかにおかしな挙動を彼は感じます。
事実として確かな事は、その日を境に彼のミリオンゴッド収支は真逆の成績に転びます。
「もしかして、遠隔とか調整とかしてんのかな…….?」
と、さすがに疑心暗鬼になります。
そうなってくると不思議と、もうどうやっても勝てなくなってしまいます。
ミリオンゴッドを打たなければ良いだけの話ですが、彼はこの頃はこの台以外では興奮できないし、他の台は面白く感じません。
台を疑い、ホール操作を疑い、基盤のプログラム追加を疑い、真相は全く解らないまま「ミリオンゴッド神々の系譜」を打ち続けました。
そうなってくると、もう誰が見ても彼には負ける要素しかありません。
それでも、今まであまりに簡単にこの台で勝てたものだから負けても負けても執着します。
コンドルやストック機などの時、「数値的に勝てる要素」をひたむきに信じて徹底した打ち方に固執し、利益を上げる事の出来るという性格傾向が彼にはハッキリと見られました。
これはある種の才能と言えます。
しかしその才能と性格傾向は、ウラを返せば「どこまでも身を委ねられる素質」でもあります。
勝てる要素を信じ切り、冷静沈着に勝てる分だけ打つ事が出来る彼の様なタイプの人間は、疑心に苛まれ、取り憑かれ、一度感情的になると逆ベクトルで大暴走してしまい、ブレーキが踏めません。
彼のブレーキ自体が完全に壊れている事は、最初の方の記事で記した理由です。
その事実は今までの彼のギャンブルの歴史が証明しています。
クランキーコンドルで「目押し」を武器に安定して勝ちまくり、B-MAXでは「精度完璧ではない目押し技術」が裏目にでて負けまくりました。
キングパルサーなどのストック機では「内部数値の完全把握」をもって勝てる状態の台だけ打ってかなり儲けました。
「CRエヴァンゲリオン使徒再び」ではただの思い込みだけで相当に勝ち、その次のエヴァの新台では「根拠無しのヒキ」が露呈し、負けても負けても打ち込み相当の負債を抱えました。
他にも多々ありますが、彼の打ち方の特徴は「同一機種で勝ちまくるか負けまくるか」というものです。
そして今回の台で初めて、「ある日を境に急に機種の態度が豹変した」という訳の解らない理由で、負けまくる方向に暴走してしまいます。
当然、今まで簡単に勝てていた機種ですので「もう潮時だ」とは彼はどうしても割り切る事が出来ません。
彼はこの「ミリオンゴッド神々の系譜」を最後に、ホールから一切姿を消す事になりました。