パニック障害:ケース1



 
さて、彼は二度目のパニック発作を体験しました。
 
この二度目の体験を境に、「彼にとって最も恐ろしいパニック発作は一度きりではない」、そう認識します。
 
「なんだかおかしな不思議超常体験」という事にして笑い飛ばしていたその体験は、この日を境に「恐怖の対象」へと10段飛ばしくらいで格上げされました。
 
「次にあの感覚が襲ってきたらどうしよう」そう怯える心境に取り憑かれ、些細な事でも発作が起きるのではないか?という「予期をして、その思考が不安を生み出す」という負の鎖の様な概念「予期不安」が彼に備わりました。
 
最初の発作の時と同様、パニック発作の最中の感覚は鮮明に覚えています。また、その時の状況なども同時にです。
 
詳しくは後述しますが、「パニック発作」が起きている時、脳内では様々な脳内神経伝達物質がアンバランスに大暴れしています。同時に、脳の一部分は過剰な反応を示し緊急事態命令を誤作動させています。
 
脳が異常に活性化している状態でもありますので、「そのときの恐怖心や状況、体験」などをいつもの何倍もの濃度で記憶や身体に刻み込みます。
 
例えば、「あの事故の時の事は、スローモーションの様によく覚えているさ…….」
 
という体験談などをドキュメンタリー番組なんかで語るシーンがあります。体験者にしか断言は出来ませんが、恐らく、その状態によく似ていると考えると、脳科学的、精神医学的には説明がつき易いというのが現代の解釈です。
 
彼はこの二度目の体験を境に「恐怖の対象」が数多くできてしまいました。
 
「あの逆らえない恐怖心」がもちろんメインですが、その発作の最中のシチュエーション全てが「発作のフラッシュバックの引き金」と彼は認識してしまいます。
 
「あのときの状況におかれると、またアレがくるのではないか」という認識です。そして、その場から「逃げられなかった」という認識です。
 
「授業中に」「みんながいるところで」「自分だけ立ち上がり朗読をする」
 
彼は、この三つが最たる恐怖の対象となりました。
 
そうでない人にしてみれば、三つとも何てことないものです。
 
しかし彼は「パニック発作」によって、これらが全力で避けたいと思う程の対象になってしまいました。
 
 
 
「それはたいへんでしたねえ…….こわかったでしょうよ。」
 
 
「タケイさん、何度も言うけどさ、アレは味あわなければ絶対に解らない感覚だよ?」
 
 
「でも、あなたが怖くなってしまったその三つは学校生活で避けて通れないでしょうよ?その後の展開、楽しみですよこれは……ここから引きこもり編だね?」
 
 
「ホントあなた、人ごとだとおもって…..腹立つわマジ。
学校はちゃんと行ったって。」
 
 
「へえ、えらいですね。でも発作は………?」
 
 
「いやあ、やっぱね、案の定?授業中ドキドキするんですよこれが。異常に…..」
 
 
中学生の彼はこれから、いくつもの対策を練ります。当時は「パニック発作」という言葉自体、ほとんどの人が聞いた事もない時代です。まっすぐ心療内科やらの機関に行くという発想を持っている人も殆ど居ません。もちろん彼もです。
 
ここからは彼の取った行動と対策、そしてパニック発作が起きなくなったまでのお話です。
 
 
 
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