30.奴隷論
ギャンブル依存症解析【最初から読む】
彼はこの店でたいした戦略もなしに打ち続け、当然の様に負け続けます。
「何故かカド台は1000円とか2000円で当たる事がやたら多い。
よし、カド台を打とう….」
などと、完全に根拠不充分の立ち回りで現金を真剣に突っ込めるまでに仕上がりました。
「いっつもカド台ばかり打ってるあのオジさんもその辺に気づいたんだろな…..
なんかもうエヴァのシマの主みたいで貫禄すらある…..」
「顔なじみの彼は今日きてるかな?
お、いたいた。どうすか?回ります?その台」
「いや~20回もまわんないね。スロットは昨日設定はいってたよ?
蒼天の拳と緑ドンとか多分けっこう入れてたっぽいよ!」
という感じで、もう普通の常連客として店に馴染み、勝ち続ける要素も無しに完全に娯楽、道楽としてプレイする訳ですから金なんか確実に減り続けます。
せっかく以前「勝つ客と負ける客」の決定的な違いと、職場のホール店長に教えてもらった「ホールにおける出玉調整」の事実まで知っていたのに「まあ、あれは5年も前の話だし、今はどうか解らないしな」という言い訳を自分に言い聞かせ、打つのには不都合になってしまう「真実に近い情報」を自らシャットアウトしていました。
そうでもしなければ、同じ店で同じ機種ばかりを勝っている訳でもなしに打ち続けられません。
彼はもうこの時期はただ打ちたいから打っているだけの優良なカモでした。
そんなカモでも、ダテに10年も博場に入り浸ってはなく、自分がそうであるという事をけっこうすぐ自覚しました。
以前、勝ち続けていた頃は「負け客」に対して
「この人たちが居るから僕のフトコロに金が回ってくるんだ。がんばれがんばれ….がんばってその設定1みたいな台をブン回してくれ……」
と思っていました。実に嫌な野郎です。
しかしそれがギャンブルの本質でもあり、結局はギャンブラー同士の金の奪い合いです。
金を得るのは少数の勝ち客と胴元です。
胴元と客が「グル」になった日には純粋な客なんて100%負けます。
そして彼はその100%に近い「負け客」である事に気づきます。
勝ってる時は
「このひと達の金が勝者に回ってくる。いつも負けてるひとはもう奴隷と同じだな…..」
とも思い、今は自分がその奴隷役です。
「これが因果応報ってやつかなあ…… いやちょっと違うな。
でもなんかホントにそう見えてきちゃったなあ。
ジャグラーを真剣に回してるこの人たち、客観的にみると奴隷そのものだよな……
ずっと台のハンドル握って並んでるこの風景だって、奴隷みたいだ。
キレイな格好した店員さんが看守で、姿を見せないオーナーとか組織が王様で。
そいつらの為にわざわざ金入れてずっと打つんだからな。奴隷だよ。
なんかジャグラーのシマが地獄に見えてきた。
見た目は賑やかで楽しい、明るい地獄だ。
たまに嬉しい瞬間があるから奴隷でいられるんだよな。
でもそれって、まあいいや、僕もこのひとたちと一緒か。」
そんなことを頭や心で完全に受け止めたあたりから、彼はギャンブルを打つ事が苦しくなってきました。