パニック障害:ケース1





彼は精神病棟へ突撃しました。
 
えもいえぬ恐怖と未知の体験、それらに対し彼は「世間の常識」に委ねる事にしたのです。
 
「病気になったら病院へ」という意味です。

 

 

14歳の彼が、誰に促された訳でもなく、1人で精神病棟に乗り込む。
どんな心境だったのでしょう?
 
「病気なら、お医者さんが診てくれて治してくれる!最悪、治んなくてもちょっとはラクになれる薬とか出してくれる!」
 
との事です。
 
思い詰めた表情と上気した顔色が混じった、なんとも近寄り難い物腰の青年が、やや小走りで精神病棟の入り口を見つめ、一心不乱に助けを求め闊歩しているその姿たるや。
 
 

 

「で、どうでした?精神科デビュー。いきなり1人で行くって、相当思い詰めてたんですねえ。しかもそのあなたが当時行ったっていう、XX区のXX病院って、生粋の精神病棟ですよ?措置入院の受け入れもある、精神科のみの」
 
 
「いやあタケイさん、チャレンジ精神ですよ。何事もね。でもね、ヒドい目にあったんだ………」
 
 
「ふうん……一体何が。すっごい病名が飛び出てきちゃった感じですか?」
 
 
彼は精神病棟のロビーに辿り着きました。
 
やけに、やけに小綺麗なロビーです。その日は雨がうっすら降っていました。煌々と蛍光灯がついている病院の受付のそれとは何故か異なり、薄暗く、ヘンな清潔感と湿気が、彼には印象的でした。ただの空気に印象を強く受けるのは、あまり無い事です。
 
カウンターにぽつりと、女性が居ます。
 
バブル期のなごりが香るヘアスタイルと、人形の様な表情の対比。なんだかよくみると、違和感。
 
「いや、そんな事はどうだっていい。僕は診断を受けに来たんだ。怯むな。」
 
急に、緊張と若干の「帰りてえ」感情が湧いてきましたが、引き返す空気では断じてありません。普通に、風邪で内科を受ける様に、受付嬢に向かってぎこちなく歩きました。
 
 
「すいません。しんだ、診断をうけに来たんですけど。」
 
 
当然の様にかんだ彼は、やや照れながら受付嬢と目を合わせました。
 
 
「ここ、精神科ですよ?」
 
 
と、人形の様な表情が急に人間の表情へと豹変し、そう彼に言い放ちました。
 
 
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