ギャンブル依存症解析【最初から読む】




彼はストック台の「特定の条件を守ってシビアに打って勝つ」という事を、仕事をして報酬を得るという感覚に投影します。

故にギャンブルを打つ行為そのものを肯定出来るので「罪悪感」は一時なくなります。

勝つべくして勝った、なんて思っているので悔やむ要因がほとんど無いのです。

お金が増え続けている間は、です。

 

 

キンパル以外のストック台の特性も把握してはオイシイとこだけを狙い打ち、コツコツ勝ちを重ねます。

 

朝イチの「台のリセット」からストック放出高確率状態を狙う「カンフーレツデン」という台ではたったひと波で15万円勝ったりしました。1回で711枚出るBIGボーナスが狂った様に連チャンする爆裂台です。

台の演出挙動からストック放出モードが解る「アウトロー」という台では何度も5万円クラスの勝ちを拾いました。この台は「内部モード」を一歩見誤ると3000ゲームでもハマってしまう事のある伝説台です。

そうこうあって、彼の手元には常に50万円ほどの現金があるというバブル状態でした。

 

もはやスロットは自分にとって完全に悪いものと捉えていた意識は飛びました。

打てば金が増える訳ですから無理もない話です。

 

この時、彼の借金なんて100万円も無かったのだからアブク銭で返済してしまえば良かったのです。

しかし「流動的すぎる現金」に安心できないギャンブラー特有の性が、「一括返済」という選択肢を消してしまうのです。

 

 

 

ギャンブル依存症の大きな特徴の一つでもありますが、いくら勝っても手元の現金の大半は次に打つ為の軍資金なので、他の事に大きく使う事が出来ないのです。

結局は負けるまで打って最終的には金が残らない理屈はこの為なのです。

 

 

 

意気揚々とストック台を打ち続け順調に資金を増やし続ける彼は、夜に雑誌であらゆるストック台の特性を研究していました。

 

そんな深夜に「一報の連絡」が入りました。

病院からです。

 

 

 

「おそらく今夜あたりが……….」

 

「そうですか。わかりました。」

 

 

 

彼は病院へ駆けつけ母親の病室へ向かいました。

しかしそこには誰も居なく、違う部屋へ案内されました。

別室でモニター付きの医療器具に繋がれたベッドに横たわる母親の側に座りました。

 

 

 

「5年も入退院するうちにこんなに細くなって。鶏がらみたいだ…」

さっき先生が難しい説明してくれたけど、雰囲気から察する事はカンタンだ、僕はあと数時間しか母と過ごせないんだな。

 

 

「こんなときにもスロットの事かんがえちゃうな…….

なんか、僕がギャンブルなんかに狂わないでもっとしっかりしてたら。

もっとちゃんと生きてたら、その分お母さんは長く生きられたのかな…….」

 

 

彼が一瞬まともな状態に戻った後、母親は亡くなりました。

 

 

家族親族が集まり、通夜、葬式をしました。

涙すら流さず母親を送ったのは彼だけでした。

 

 

「悲しいのは間違いないんだけど、皆みたいに人間的に悲しめない。

あんなに冷静沈着な兄貴が寂しそうな顔で泣いて悲しんでる….

親父が嗚咽で挨拶文ぜんぜん読めてない……

僕はなんか平らな気分だ。どうしてだろう。

感情がどうかしちゃったのか。」

 

 

気がつくのが遅すぎますが、彼の感情はとっくにどうかしちゃってるのです。

 

葬式の次の日、彼はキンパルを打っていました。

その台は設定6でした。

7万円ほど勝ちました。

 

 

 

 

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