ギャンブル依存症解析【最初から読む】





 
「アラジンチャンスが止まらなくて2時間くらいで12万円勝ったんですよ。」

 

「そうですか。凄い額ですね……テンション上がったでしょう?」

 

「いえ………勝っても負けてもどこかずっと不安でした。多分。」

 

 

 

 

「アラジンチャンス」とは、4号機爆裂AT機の最大の特性である「アシストタイム(AT)」のひとつで、殆ど毎ゲーム小役が揃う様にアシストを得ている権利状態です。

要するに出っぱなしの至福の時です。

 

しかし彼は手放しで浮かれません。

「出だすまでに45000円入れたからな……プラス75000円とマルボロ一箱か。

こないだストレートに50000円負けたし、んん….全然だな。」

 

 

彼自身はこの時、頭では解釈していないが、感覚的に心情的には気がついているのです。

「手元にある金があまりに流動的すぎて、自分の金だという感覚が薄いという感覚」

 

それはそうだと思います。

一般的に金は使えば減り、稼げば増えるのですが、ギャンブルの場合は「使う」の段階が「投資」と同様の感覚なので「減るか増えるか判らない心境」にいます。

そして、減る方は自分の資金なのである程度把握しますが、増える方の金額は不定数なのです。

 

この「不定数の報酬」が実にクセ者で、依存というか正確には「中毒性」のあるものです。

例えば、今日は1万円くらい勝たないかな。と希望を抱き打った結果10万円勝ったとします。

 

「ばかにツイてた!やった!」

で、終わらして金輪際打たなければギャンブルに於いて完全勝利者なのですが、「不定数の勝ち額」の魔力は強烈です。

 

 

 

予定外の報酬や幸福といいましょうか、本当に嬉しいものなのです。

アテにしていない事が凄い規模で得られる、といいましょうか。例えば、

 

「全然期待してなかったが、今月は会社から30万円ボーナスが出た。」

これは超うれしい。

よし、頑張って仕事すっぞ!という気になるでしょう。

 

 

「マンネリ気味でいい加減将来とか不安に感じていた所に彼氏が突然のサプライズ・プロポーズ!」

これは号泣でしょう。

彼と一生幸せになる……そう誓う事でしょう。

 

 

 

予想外に10万円も勝った事に戻ると、「また打ってやる!」と普通は思います。

予想外に10万円も勝ったがしかし、「もう絶対打たねえ!」と普通は思いません。

 

 

 

そして「不定数の報酬」の中毒性ですが、「会社から期待してなかったボーナス支給」の場合はこうです。

「そうか、頑張った訳だしその分ちゃんと見ててくれてんだな実は!よっしゃもっと頑張ろう!」

と、非常に美しい形で報酬に対する期待値を持つ事が出来てモチベーションという名の継続的なやる気が得られます。仕事に対する「やる気」に中毒性を帯びてもさほど悪い事はないでしょう。

 

 

「マンネリ彼氏サプライズ・プロポーズ」の場合はこうです。

「ちゃんと私の事を考えてくれてたんだ。この人とならきっと大丈夫!ずっと一緒に居るって事だもんね!いいお嫁さんになろう!」

彼氏の誠意と責任、演出までかました愛情表現がもたらしたものは、やはり継続的に互いの幸福を誓うものですから愛情に中毒性が帯びていても悪い事はないでしょう。

 

 

「10万円も勝っちゃった」場合はこうです。

「いやいや、たまたまツイてたんだろうけど凄いな……凄い。凄いわオレ。いやまさかな。たまたまだろうけど凄いわ…..まあまた今度ちょっと打ってみるか。」

 

 

「ただツイていただけ。」と100%思っていれば再び打つ事は無いと思います。

「こないだ馬鹿ツキだったから次はオニの様に負ける。そんなもんだ。」

本気でそう思えるからです。

 

 

しかし、しかしです。「破滅的ギャンブラーの思考回路」には以下のものが存在する様です。

 

「自己を特別視する」 (周りは負けていようが自分だけは勝てると信じる)

「偶発的な事象も自己の何らかの影響と認識する」 (たまたまでなく自力で勝った)

「好都合を永続視する」 (条件さえ整えばいつでも勝てる)

 

 

これが一つでも欠けていれば、ギャンブル依存症に陥る事は少ないと思われます。

理由はシンプルなもので、一つでも欠けている人間は

「結局は10人いたら2~3人しか勝てないようになってるんだ。程々にしとこう。」

「神様でもないし、どんなに工夫したって偶然だけはコントロール出来ない」

「いつまでも勝ち続けられる訳が無い。ギャンブルなんだし。」

 

という正常な思考と意思が優位に立つので、まあ、打ってもほどほど。娯楽として付き合える健全な(?)ものです。

幸運な事に破滅的ギャンブラーの素質に欠けているという事です。

 

 

ギャンブル依存症の人間は、10万円たまたま勝ったら最低でもその10万円が無くなるまで打ちます。

そしてプラマイゼロの収支結果で残るは「こんなもんだ。ギャンブルだしな」ではなく「いずれまた10万円くらい勝てるはずだ」という思考です。

 

もともと持っている人並み以上の自尊心と、楽天的な思考傾向とが常識的な解釈に逆らうのでしょう。

「自分はギャンブルで勝てる」という倒錯した思考を抱いていないと、10万円勝って10万円負けてなお、また打つという選択肢は出てきません。

 

このあたりの元来持ち合わせている思癖と、「自分は他人とは少し違う」という自尊心からはみ出た自己愛的な性格傾向とがあるが故に、常識を逸した選択肢に身を投じる事ができるのでしょう。

 

 

 

この時点で彼は金融業者から借金をしてギャンブルを打ち続けています。

もう既に、自力でギャンブル依存症から脱するのはほぼ不可能なレベルです。

狂ったバランスの脳内神経伝達物質と脳内麻薬中毒、習慣による行動制限と倒錯した思考パターンを以前の状態に戻す事は、マインドコントロールを自力で解除するくらい難解です。

洗脳した相手が居ればまだしも、奇しくも自分自身でその精神状態に居続ける事がギャンブル依存症の難しい点でしょう。

 

 

 

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